事実は小説より奇なり

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

すばらしい、というのが一読したときの感想だ。これは単なる新書ではない。むしろ、ノンフィクションの小説といった方が近いかもしれない。科学者が真理を探究するストーリーは、下手な小説よりドラマチックである。


テーマとしては、生物と無生物を分けるものは何かということで、著者の主張は生物は平衡状態を作り出す系であって、これが生物だという固定的なものはないとか、まぁそういうはなし。生物の細胞は固定されたもので、栄養素などがそれを通過するようなイメージを持ってしまうが、実際は常に分子レベルで物質の入れ替わりがあって、平衡状態になっているんだよと。その平衡状態を保っている「システム」こそが生物なんだと。あぁ、これが7号館の7階で放射性物質をつかって実験していることなのね、と納得した。

しかし、これがこの本のおもしろみではない。こうした議論に発展していくまでの、生物学上の議論の発展を書き連ねたのがこの本。問題提起から始まり、遺伝子情報が DNA によってもたらされることが発見されるまでの研究者の努力、技術的発展、査読と盗用、研究者同士のいがみ合い。そういったものを研究者でもある著者の視点から、研究生活や研究活動がどのようなものかといったバックグラウンドや、たとえ話などを交えてまとめ上げている。とりわけ、最後までペースを崩すことなく書ききる様は圧巻。研究とは縁遠い人は読んでみると、研究生活がかいま見えて良いんではないでしょうか。

以前読んだ、ゲーデルの不完全性定理の本と似たような印象を持ったが、より読み物として完成している。こういうはなしを聞いていつも思うのは、たくさんの研究者が、人類が達成すべきと信じている一つの大きな目標に向かって競って研究するような世界はかっこいいなぁというか憧れるというか・・・。何がいいたいんでしょう。